大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松地方裁判所丸亀支部 平成4年(ワ)150号 判決

主文

一、原告と被告ら間の高松地方裁判所丸亀支部平成四年(手ワ)第一二号約束手形金請求事件について、同裁判所が平成四年九月二二日に言い渡した手形判決はこれを取り消す。

二、原告の請求を棄却する。

三、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、申立

一、原告

1. 被告らは原告に対し、各自金四五〇万円及びこれに対する平成四年七月一日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

2. 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

3. 仮執行の宣言

二、被告ら

主文一ないし三項と同旨の判決

第二、主張

一、請求の原因

1. 被告有限会社丸富地所は平成三年一〇月二日、次の約束手形を振り出して被告横内瑠美子に交付した。

振出日 白地

振出地 香川県三豊郡豊浜町

金額 金四五〇万円

支払期日 平成四年七月一日

支払地 香川県丸亀市

支払場所 株式会社伊予銀行丸亀支店

受取人 白地

2. 被告瑠美子は右手形に白地式裏書をしてこれを被告横内輝久に交付し、被告輝久はこれに白地式裏書をして有限会社東武ファイナンスに交付し、東武ファイナンスは更に白地式裏書をして原告に交付し(いずれも拒絶証書作成義務免除)、原告はこれを所持している。

3. 原告は本件手形の振出日欄に平成三年一〇月二日、受取人欄に横内瑠美子と補充したうえ、支払期日に支払場所において支払のため呈示したが支払われなかった。

4. そこで、原告は被告らに対し、本件手形金四五〇万円及びこれに対する支払期日である平成四年七月一日から完済まで手形法所定年六分の割合による利息の支払いを求める。

二、請求の原因に対する認否

1. 請求の原因1の事実は認める。

2. 同2の事実のうち、東武ファイナンスが原告に交付した事実は知らない、その余は認める。

3. 同3の事実のうち、支払いのため呈示したことは認める、その余は知らない。

4. 同4は争う。

三、抗弁(悪意の抗弁)

1. 被告会社は平成三年一〇月二日、東武ファイナンスから六〇〇〇万円の借入を受けた際(月利二・五パーセント、返済日同四年一〇月一日)、右借入金に対する同四年一月二日から同年四月一日まで、同月二日から同年七月一日まで及び同月二日から同年一〇月一日までの各三か月間の利息の支払いのためにいずれも四五〇万円の手形三通を振出したが、本件手形は右最後の三か月間の利息分の手形である。

2. 原告は本件手形取得時(平成三年一一月二八日)において、右の事情を知っていた。

3.(一) 右六〇〇〇万円の実質上の貸主は原告であるところ、被告会社は平成四年二月一二日に一〇〇〇万円を返済し、残金五〇〇〇万円は原告(名義上は原告の妻吉原栄子)に対し新たな借用証を差し入れたうえ、同年五月一日に弁済した。

(二) そうでないとしても、被告会社は平成四年二月一二日、東武ファイナンスに六〇〇〇万円を返済した。

4. そうすると、六〇〇〇万円の借入金に対する平成四年七月二日から三か月間の利息というものは発生しないこととなったのであるから、本件手形は返還されるべきものである。

5. にも拘らず原告はこれを返還せず、期日に呈示したものであって、本訴請求は棄却されるべきである。

四、抗弁に対する認否

1. 1及び2の事実は認める。

2. 3の(一)は否認し、(二)は認める。

3. 4及び5は争う。

4. 原告(以下、原告の妻で貸金業者の吉原栄子の代理人としての原告を指す)が本件手形を取得した経緯は次のとおりである。即ち、

(一)  東武ファイナンスは貸金等を業とする有限会社で、右栄子はその金主の一人である。

(二)  栄子は平成三年一一月二一日、東武ファイナンスを連帯保証人として中村富士枝に対し、一億二〇〇〇万円を貸し付けたが(以下、別途貸付という)、後日、その担保物件が東武ファイナンスの説明と異なり、三〇〇〇万円程度にしかならないことが判明した。

(三)  そこで原告は東武ファイナンスにこれを詰問したうえ善後策を協議した結果、右中村に全額の返済を求めること、東武ファイナンスから本件手形を含む被告ら主張の三通の手形を別途貸付の元金に内入れとして原告に交付すること等で合意に達した。

こうして原告は平成三年一一月二八日、本件手形を取得したものである。

(四)  ところで、被告会社は平成四年二月一二日に東武ファイナンスに六〇〇〇万円を返済したので、東武ファイナンスは本件手形を被告会社に返還すべきこととなった。

(五)  東武ファイナンスは被告会社に貸し付けた六〇〇〇万円を栄子から借り受けたことでもあり、原告は本件手形振出の事情を知ってこれを取得したものではあるが、右のとおり、その取得時においては、東武ファイナンスの被告会社に対する本件手形の返還義務は発生していなかったのであるから、悪意の抗弁は理由がない。

五、再抗弁

被告会社及び同輝久は原告に対し、平成四年二月五日と同年五月一日の二度にわたり、本件手形を返済する旨確約した。

六、再抗弁に対する認否

否認する。

第三、証拠関係〈略〉

理由

一、請求の原因1の事実、同2の事実のうち、被告瑠美子、同輝久が白地式裏書きをなしたこと、同3の事実のうち原告が本件手形を支払いのために呈示したことは当事者間に争いがない。

二、その余の請求原因事実は甲第一号証の一ないし三、証人松本廣一の証言によりこれを認めることができ、これに反する証拠はない。

三、抗弁について

1. 抗弁1、2の事実及び3の(二)の事実については当事者間に争いがない。

2. 当事者間に争いのない右の事実並びに原告の自認するところによると、原告は本件手形が東武ファイナンスから被告会社への六〇〇〇万円の貸付の利息の支払いのために右被告から東武ファイナンスに交付されたことを知ったうえでこれを取得したものであるから、右手形を右貸付と関係のない別除貸付の担保ないし決済に流用することは手形法上の悪意の抗弁制度の趣旨及び取引上の信義則に照らして許されないものというべきである(乙第五号証の一、二)。

3. 従って、抗弁は理由がある。

四、再抗弁について

原告は甲第八号証、第一一号証を提出するほか、証人松本及び原告も再抗弁に沿う供述をなすが、甲第一〇号証の一、二、乙第五号証の一、二並びに被告輝久の供述に照らして措信しない。

ほかには再抗弁を認めるに足りる的確な証拠はない。

五、そこで、右と異なる本件手形判決はこれを取消したうえ、原告の請求を棄却することとし、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例